測定器紹介③
2026年 01月 16日
(4478字)

本日ご紹介するのはトルクレンチから。
トルクレンチを『測定器』とするのには少し違和感がありますが、まぁ数字がついてるという意味では測定器ですから良いでしょう。
工具紹介の時にも触れていますが、トルクレンチに関してはいろいろ思うところがあるので今一度。

まずはこちらのプリセット式。
小さい方は20年くらい前に初めて買ったトルクレンチ。バイク整備をするにあたって、「トルクレンチで締め付けせねばならぬ!」という謎の使命感にかられて購入したのですが、いざ使おうと思っても何N・mで締め付けたら良いのかがわからず、結局は使わずじまいとなった思い出があります。
その頃はRMXをバリバリイジってた時で、エンジン乗せ替えたり付かないチャンバー無理矢理付けたりして色々遊んでいました。ただ、サービスマニュアルなんてものは持ってませんでしたし、今みたいに手軽に情報が入る時代でもありませんでした。なので、バイク屋さんのマネしてカッコつけてトルクレンチで整備しようと思っても、肝心の締め付けトルクが判らないというお粗末さ。
とはいえ、『ちゃんとした整備』を心がけようと思った最初のきっかけとなったので、思い入れがありますね。
大きい方はタイヤ交換用に購入したもの。

そしてこちらのダイアル式トルクレンチ。これが現在メインで使っている物となります。
下から25N・m、100N・m、280N・mスケール。
バイク整備であれば、M8までは25N・mスケールを使用し、M10以上で100N・mスケールを使用します。280N・mはクラッチのセンターナットやドカティのホイールナットなど。
いつ頃購入した物か失念しましたが、おそらくtmとかフサベルとかをイジり出した2007年頃だったと思います。280N・mスケールのはアグスタのリアホイール用に購入したので2011年ですね。
ことあるごとに書いてますが、ダイアル式は締め付けトルクの値をリニアに知ることが出来るのが最大の特徴。さらに緩める時のトルクも知ることが出来るので、いろいろな実験や検証にも役立ちます。
また、プリセット式と違っていちいち締め付けトルクを設定しなくて良いので、使い勝手が良いですね。手にとってパッと締め付けて目で確認してスッと終わるので、単発使用が多い場合なら作業効率も良くなります。
そして最大のメリット・・・というかダイアル式に与えられた『使命』は、『ボルトの状態を把握する』というところにあります。
サービスマニュアル通りにただ無心で締め付けトルクを設定して締め付けるだけなら、プリセット式でも違いはありません。
しかし、バイク整備をする上で、ボルトの状態は必ずしも一定とは言えません。
ネジ山がナメていたり、ボルトが弱っていたりすることもしばしば。
そもそもボルトというのは、バネのように『伸びた物が縮もうとする力』と、その座面で発生する『摩擦力』によって被締結物を押さえつけるのが基本となります。
その押さえつける力を『軸力』と呼び、座面の摩擦力と合算されたものが『締め付けトルク』となるわけです。

ボルトを回転させることでオスネジがメスネジ側に潜り込んでいき、その動きによって引っ掛かっている頭の部分とネジ山との間が伸びていきます。これがバネの力となって被締結物を押さえつける働きとなります。
ですので、締め付けトルクと軸力には、相関性はありつつも絶対ではないという点に注意が必要となります。
というのも、軸力は単純に伸びたボルトが縮もうとする力で考えることが出来ますが、締め付けトルクは複数の要素で構成されているからです。
一つ目は座面の摩擦抵抗。この摩擦を打ち破る力を発生させなければボルトが回転しませんが、その分の力は軸力になんら影響を与えてはいません。しかし腕に力は入っている。
しかもその摩擦には『動摩擦』と『静摩擦』とがあり、それぞれ全く異なる状態となります。『静摩擦』は止まっている状態のボルトが回り始めるまでに発生している摩擦で、『動摩擦』は回っている最中に発生している摩擦となります。

締め付けトルクと軸力の関係を簡単なグラフにするとこんなイメージとなります。
締め付けトルクをかけ始めても、ボルトが回り始める前に既に力を要するので、グラフが垂直に立ち上がってしまいます。そこから静摩擦を打ち破ってようやく回転し始めたボルトですが、その力からは常に動摩擦が引かれている状態となるわけです。まるで税金のように。
ちなみに軸力と書いている式はあくまでイメージであり、実際の軸力の公式は後述します。
ボルトの軸力は専用の装置で測定することができますが、一般人がおいそれと購入出来るものではありません。それに、締結後に測定するわけですから、実務的にも無駄が発生します。
そこで『締め付けトルク』で管理するという方法が一般的となりました。
締め込む時の力で、おおよその軸力が決まるという方式。しかし、上記の通り摩擦の値も付帯するので、純粋な軸力を判断するためには、ボルトの状態、材質、メッキの種類、メネジの材質、グリスの有無などに配慮する必要が出てきます。
まず、軸力(Ff)は以下の式で定義されています。
σy→耐力
As→ボルトの有効断面積
耐力とは、例えば強度区分12.9のボルトの場合、『.9』の部分が耐力を示しており、『12』の方が引っ張り強さの最小値を表しています。『.9』は『90%』ということなので、1220N/mm^2の90%→1098N/mm^2がこのボルトの単位面積当たりの耐力ということになります。
この耐力は『降伏点』と言い換えることも出来ます。つまり、弾性限界。これ以上締め込んだら『伸びる』ギリギリということ。
そしてこれに有効断面積。つまりネジ山の『山』の部分を除いた面積をかけて、その70%の値を『軸力』と定義してあるわけです。
したがって、
使用されるボルトの強度区分とサイズによって、発生させることの出来る軸力は既に定まっている
ということになるのです。
この定まった軸力を発揮させるために必要な『締め付けトルク』は、先述の条件によって変動します。これもある程度定義されており、以下の式で求めることが出来ます。
ここでポイントになってくる『k』と『Q』の値。
『k』は『トルク係数』のことを指し、ボルトの潤滑の有無、及び材質によって以下のような数値が定められています。

そして『Q』の方は『締め付け係数』というもので、主に締め付け方による影響が加味されています。

というわけで、メーカーのサービスマニュアルが無くとも、計算式から概ね締め付けトルクは判断出来るわけですが、いちいち計算するのは手間ですし、メーカーの思惑もあるかもしれませんので、基本的にはサービスマニュアル通りに締め付ける方が『早い』ということにはなりますね。
で
話を元に戻しますが、それら締め付けトルクに関わるファクターを、回転角と針が指し示す値からボルトの状態を『察する』というのが、ダイアル式トルクレンチに与えられた『使命』ということになるわけです。
例えばDB7姫のスイングアームピボットボルト。

ここのボルトはM16の太さに対し座面が非常に大きいデザインとなっています。したがって、締め込んだ際に座面に発生している摩擦も大きくなります。

ですので、マニュアルには『grease under head』、つまり『座面にグリスを塗れ』と指示がされています。グリスを塗ることで摩擦を減らし、55N・mの締め付けトルクが確実に軸力の方に変換される処置がなされているのです。(異種金属間の腐食予防の観点もあります)
で、実際にグリスを塗って締め付けるわけですが、やはり摩擦の力は甚大で、大した軸力を発生させていないにも関わらず、あっという間に締め付けトルクが55N・mに達してしまいます。
なのでもう一度増し締めを行うわけですが、その際トルクレンチの値は静摩擦を打ち破るために一瞬55N・mを上回ります。その後回り始めると針はスッと45N・m付近に戻り、回転角に伴いじわじわ55N・mに近づいていきます。

グラフで表すとこんな感じのイメージ。
座面のサイズが大きくなると静摩擦力は大きくなりますが、動摩擦力は座面のサイズに影響しないと考えています(←ちょっと勉強不足!)
ですので実体験込みの考え方ですが、座面の大きいボルトの場合、なるべく一気に規定の締め付けトルクまで回すことが重要となります。特に規定の締め付けトルク少し手前で止めてしまうと、そこで発生する静摩擦を破ってボルトをさらに回転させて規定のトルクを発生させるのが難しくなってしまいます。
とはいえ、なかなかそうもいかないシチュエーションもあります。
そういった場合、最初に55N・mに達した時はまだ軸力は規定の値に達していなかったということになってしまいます。これがもしプリセット式ならどうなるでしょう。
最初の55N・mで「カチッ」となってしまいますし、その後確認で何度かやっても55N・mで「カチッカチッ」となってしまいます。
座面には強大な摩擦が発生しているので、そう簡単に緩むということはないかもしれません。ですが、それはあくまで摩擦頼りですので、『パーツを押さえつける力』は狙った値に足りていないということになります。
それは軸の剛性不足につながり、本来の走りのポテンシャルを発揮できないということにもつながります。それくらい締め付け軸力が重要な箇所もあるのです。
逆にカウルの固定ボルトの場合。この場合は『パーツを押さえつける力』は出来るだけ少ない方が良いと言えます。ですのでなるべく大きい座面で、ゴムやプラスチックのワッシャーで緩衝材とし、ネジ部にグリスなどは使わず出来るだけ軸力を発生させない締め付けが重要となってきます。
ここでは剛性よりも『緩まない』ということが絶対視されるわけです。
そういった作業でも、ダイアルゲージの値を見れば静摩擦がどれくらい発生しているかを予測することが出来ます。具体的には小刻みに締め込むことで、締め付けトルクが座面の静摩擦に吸われているのを針を見ながら確認することが出来るのです。
ほとんど場合、経験による『手の感覚』で解決することが出来ますが、ダイアル式を使用することでそれを数値化してより具体性を持たせることが出来るのです。
そしてなにより、
『ボルトの状態を意識するきかっけ』
を与えてくれるのが、ダイアル式を使用することの一番の功績だと感じます。おそらくプリセット式だけを使っていたら、こんな考えには至らなかったと思います。
以上、トルクレンチのお話でした。
・・・
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・・・
・・・・アレ!?
測定器紹介!?
by tm144en
| 2026-01-16 00:07
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