【500-Vdue】(第12話:シリンダー座面①)<第5章:測定>〜目覚めよ!冥界の支配者〜
2025年 07月 19日
一方その頃・・・







上シリンダーは、内壁に傷の入っていた方。今回の測定で前後方向にシリンダーが斜めの状態で固定されていたことになるので、もしかするとそれが原因でこの傷になったのではないか?
ーーーーいや、ちょっとタンマ!
先ほどの測定は、あくまでヘッド側とケース側の合計値としての傾きでした。つまり、ケース側はちゃんと水平で、ヘッド側だけが斜めになっている可能性があります。 ヘッド側はクーラントの通路しかありませんので、気密性さえ確保されていれば、座面が斜めでも問題は無いと言えます。
なので、その可能性をしっかり排除し、純粋にケース座面だけの平面度の測定を行う必要があります。
しかしどうやって?
ここで重要になるのは、シリンダーに対して座面が直角になっているかどうかとなります。なので、シリンダーを基準にして、座面を測定しなければなりません。
しかし、平面の測定は比較的容易に出来ますが、直角の測定はなかなかの高難度。いや、高価格。精密な直角を測定する器具はなかなかのお値段となるので、ちょっとたじろいでしまいます。 それに、仮にそういったいわゆる高精度なスコヤで測定する場合、フィラーゲージで隙間を測定する必要があるので、ちょっと面倒。先ほどのようにダイアルゲージを滑らせて測定出来た方が、全体のイメージを把握しやすくなります。









極端に表すとこのように一気にツルッとなってしまうので、設定した切り込み量よりも過度に削れてしまったように見えてしまうのです。







1次圧縮容積の測定と並行し、シリンダーの座面についても精度の確認を行っていました。

まずとっかかりとして、座面の精度がどうなっているかを定盤の上で確認。ヘッド側を下にして、ケース側座面の上にダイアルゲージを滑らせます。

まずは下シリンダー。吸気側のスタッドボルト穴付近から排気側に滑らせていくと・・・

お見事!
目測0.005mmほどの狂いしかありませんでした。
流石にシリンダーはちゃんと造られているというか、疑い過ぎだったかと思った矢先・・・

上シリンダーを測定すると・・・

えええええええぇぇぇ〜〜〜〜〜!?!?!?
いやいやいやいやいやいやいやいあいあいあいあいあいあいあい!!!
0.1!?
0.1mmも高低差あるって!?
そんなことあーるー!?いや、無いでしょ!下シリンダーは0.005mmだったのですから。

なので、なんらかの方法でシリンダーを軸にして固定したいのですが・・・はたしてどんな方法が?
最初に思いついたのは、旋盤にシリンダーを取り付けるという方法。旋盤のチャックでシリンダーの内側からつかみ、シリンダーの内壁にダイアルゲージをあてて芯を出す。
ですが、この方法だと荒々しすぎます。少なからずシリンダーに傷がついてしまいますし、チャックの力で歪んでしまうことがあるかもしれません。シリンダーに強い力をかけるのは、あまりよろしく無いと言えるでしょう。
であるならば、シリンダーの径にほぼ圧入で入れれる大きなジグを作るか?ジグに取り付けた状態で旋盤に取り付ければ、精密な測定が出来るのでは?
いや、しかし、圧入してしまうと抜けなくなったらオシマイですし、すきまがあったら測定になりません。寸法差0.01mmくらいであれば、ギリギリ圧入手前で、かつ高精度な測定が出来るか?
もしくは、内側からクランプするようにするか?いや、それだと精度が低いか?
ウ〜〜〜〜〜〜ン!!!
考えててもラチがあかない!

ということで見切り発車。
とにかくまず形にしてみて、それから問題点があれば解決していく作戦をとることにしました。

シリンダーはかなりの長さですからね。この長さのはめあいは全く想像が出来ませんから、もうとにかくやってみるしかないでしょう。

というわけでワークをセット。シリンダー径はφ72mmなので、φ75mmのワークを用意しました。材料はA6061。
切削量を最小限にするため、この状態である程度振れをとっておき、

まずは薄皮を旋削。

そしたら反対向きに付け替え、しっかり芯を出します。

あとはひたすら旋削。
切削範囲が長いので、手動送りでは結構な重労働。しかも、径の大きいワークなので最低回転数でも周速が速くなってしまい、ワーク温度がどんどん上がっていってしまいます。
1/100mmレベルのはめあい精度を狙っているので、ワークの温度が上昇してしまうのは問題。20度上昇するだけでも、直径が0.03mmも膨張してしまうので、高精度なはめあいを狙う場合は致命傷となってしまいます。
回転数はこれ以下に落とせないので、あとは切り込み量を少なくして発熱をなるべく抑え、それでも上昇してしまった分に関しては適宜休ませながら時間をかけて削るしかありません。
ーーーーそして3時間半が経過。
集中力が切れてしまったと言われれば、そうかもしれません。
最後の追い込み。シリンダー径がφ72.00mmなので、まずはその値におけるはめあいをテストするつもりでいました。
そして、最後の0.01mmのはずが・・・

ええええええぇぇぇぇぇえええ〜〜〜〜〜!?!?!?
71.95mmになっちゃった〜〜〜〜〜〜!!!!!
なんでやね〜〜〜〜〜〜ん!!!
ついさっきまで72.01mmだったのに、なんでそこからいきなり0.06mmもワープしちゃうの!?

おそらく原因はコレ。
通常の旋削面は、厳密には図の様に連続的なネジ山のような状態になっています。これは、バイトがワークを削ってはいますが、回転に対して送りが速いとネジ切りみたいになってしまいますし、遅過ぎたら同じ場所が削れ過ぎてしまいます。
また、『削る』という行為は厳密には『せん断』の連続。つまり、ワークの表面に当てた刃によって塑性変形させ、そのまません断させるという行為の連続となります。わかりやすく表現すると『むしり取って』いる状態と変わりないので、その表面には連続的な『バリ』が残ることになり、それが図の様な状態で整列しているということになります。
これは刃で削る以上、どんなに回転数を上げようと何をしようと、ナノレベルではずっとこういったギザギザの状態になってしまいます。
ただ、ある程度までいくと手触りも滑らかになりますし、鏡面に近いレベルまで持っていくことは可能です。ですが、厳密には違うということ。
その辺りに関しては詳しく解説している動画を貼り付けておきますので、ご興味のある方は是非。
で、そのギザギザの大きい状態でマイクロメーターで測定すると、最後の仕上げで削った時に

解ってはいたことなのに、やらかしてしまったということは、それはもう『集中力が切れていた』以外のなにものでもないでしょう。

さて、φ72mmにおける寸法差0.05mmは、はめあい公差でいうところギリh8クラス。これは『中間ばめ』の『滑合』とされ、『上質な位置決め・精密な摺動部分』と定義されています。
なので、当初の予定からは削り過ぎましたが、結果的にはちょうど良かったのかもしれません。おそらく71.99mmとかだと、引っかかってうまく入っていかなかった可能性もあります。
とまぁ都合よく考え、早速このジグにシリンダーをはめてみることに。

それにあたり、シリンダーとジグに傷が入らない様グリスを塗ってはめ込んでみたのですが・・・

ぉおお!!
めっちゃいい感じやんけ!!
なんていうんでしょう。0.05mmの隙間にびっちりグリスが充填されたことで、シリンダーには全くのガタ付きが発生せず、それでいてジグの上をぬる〜っと滑らせることもできます。また、このままの状態で旋盤を手で回転させても、シリンダーがジグの上で滑ること無く旋盤に合わせて一緒に回転しました。
座面の精度を測定する際、旋盤を回転させるか、ジグの上でシリンダーだけを回転させるか、どちらの方法が良いか迷っていたのですが、これならどちらの方法でも出来そうなので両方試して結果を照らし合わせてみることも可能です。
いやいやいや。
定盤の上でシリンダーを測定して愕然とし、それからシリンダー軸を基準に座面を測定する方法を暗中模索。「これだ」という方法が思いつかないまま見切り発車で作業を始め、思わぬミスで削り過ぎてしまったかのように思われましたが、まさかのグリスで形成逆転。結果的には大成功といえる状態にまでもってくることができました。
やっぱとりあえず『やってみる』のは、大事ですね〜☆

さて、それでは早速測定を行っていきます。

まずは基準点。吸気側のスタッドボルト穴付近でダイアルゲージをゼロにセット。この状態でゆっくり「シリンダーだけを」回転させてみると・・・

ぬる〜っと針が動き、排気側までいくとその値は0.06mm。つまり、吸気側よりも排気側の方が座面が高くなっているということになります。
旋盤の方を回転させても概ね同じ結果でした。
なので、定盤で測定した時は0.1mmという傾きでしたが、ケース側座面に限定すると傾きは0.06mmであるということがわかりました。
3時間半かけて慎重にジグを作り、グリスという思わぬ効果で見事なまでに精密な測定が出来たという『喜び』
と、
それによって、まごうこと無くケース側座面には0.06mmもの傾きがあるという事実を突きつけられた『哀しみ』
クランクケースは左右に0.2mm傾き、その上に乗るシリンダーは前後に0.6mm傾く。
喜びと哀しみが同時に押し寄せ、しばしのあいだ茫然自失となるのであった・・・
by tm144en
| 2025-07-19 00:48
| bimota 500-Vdue
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