【SF848】ハンドルバークランプを考える(長文)
2023年 07月 28日
先日Twitterの方で、ハンドルバークランプの取り付け方のご指摘を頂きました。




このハンドルバークランプの構造を紐解いていきます。

クランプを外して分解。

こちらが上側のクランプ。左右一体型になっており、ハンドルの捻れに対し剛性を保たせています。

ですが、定盤の上に乗せてみると、微妙に歪んでいるのが発覚。

コンマ数ミリ程度ですが、カタカタ動きます。おそらく、40000kmに及ぶ走行、及び度重なる脱着を経て、正確な締め付けが行われず歪んでしまったものと考えられます。

お次は下側のクランプ部分。

真横から確認すると、画像左側の方が若干高くなっているので、Cの簡易分割型であることが判ります。

簡易分割型なので、このように左側をまず固定し、右側のボルトを締め込むのが『セオリー』ということになります。
で、ここからが重要なポイント。この簡易型が『どのくらいの精度で』造られているのか?












そこで今回は、『クランプ』というものについて考察していくことにします。
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まず初めに、『クランプ』の代表的な4つを以下の図にまとめました。

名称に関しては、今回の記事を書く上での便宜上私が勝手につけたものになります。
まず、クランプとして最も優れているのはAのC型クランプ。バイクではフロントフォークの固定などで使用されており、4つの中ではもっとも精度や剛性の面で優れています。製造方法も比較的容易で、精密な内径を切削後、切り欠きを1箇所設けるだけの非常にシンプルでありながら、究極のクランプ方法となります。
重要なのは、パイプの径とクランプの内径の値が100分の1mm単位で一致していること。それにより、真円がゆがむことなく完璧に密着し、ボルトの締め付けも僅かなもので済みます。
ただしこのクランプは、先端が真っ直ぐなフロントフォークなどにしか採用できないというデメリットがあります。
そこで次に優れているのがBの分割型。
BもA同様精密な内径切削後、2箇所の切り欠きを設けただけのこれもシンプルな構造となります。分割型も精密に製造することで、C型に限りなく近い精度や剛性を得ることができます。敢えて上げるなら、切り欠きが1箇所増えたことによる接触面積の低下がありますが、それも微々たるもの。
クランプの材質がアルミでボルトがスチールであれば、場合によっては両サイドをボルトで挟み込んでいる分割型の方が剛性が高くなることも考えられるかもしれません。
しかし分割型の注意点は、このボルトの締め付け方にあります。2本を『極めて均等』に締め付けなければ精密な固定とはならず、狙った剛性や精度を出すことができなくなってしまいます。なので、組み立て作業者への周知などが重要となり、知見の無い者が触ると破損などのリスクが生じることにつながってしまいます。
そこで考えられたのがCの簡易分割型。
Bの分割型との違いはその締め付け方法にあります。簡易分割型は図の左側のボルトを先に締め込み、その後右側を規定トルクで締め付けるだけなので、手順さえ守れば組み付けはBの分割型に比べ非常に容易。大衆車などで多く採用され、不特定多数の整備者の手に渡る場合この方法がもっとも低リスクな構造と言えます。
ただしデメリットもあります。
まず、精度や剛性はAやBのクランプには及ばないという点。それは、製造の方法にあります。AやBのクランプは、『穴を空けて切り欠きを入れる』という単純な切削のみで製造することができ、それゆえに精度の高いものに仕上げることができました。
しかしCの簡易分割型の製造は一筋縄ではいきません。それは、図の左側の接触面の精度も重要になってくるうえ、2つのパーツを別の工程で作らなければならないというところにあります。

もし、Bの分割型の要領で両端を切削してしまうと、接触面を合わせると切削した分内径の円が詰まってしまうことになります。なので、接触させつつ真円を保たせなければならないので、非常に精密な切削機械で作るか、2個作って一つを無駄にするかといった方法になってしまいます。
その為、理論的にAやBと同じ剛性や精度は出せなくはないものの、それを達成するためにはエンジン部品並みの高精度で製作する必要があり、コストが嵩みます。なので、現実的には低精度と言わざるを得ません。
最後にDのヒンジ型は、片側が蝶番や爪で接続するようになっており、他の3つに比べ一番精度や剛性に乏しいものとなっています。なので、重要部品の固定というよりは、キルスイッチなどの軽い電装部品などで採用されることが多いクランプ方法となります。
ーーーーーさて、以上のクランプの種類とその特徴を踏まえまして、いよいよ本題に入ります。

麗しのストファイ848ちゃん。





コンマ数ミリ程度ですが、カタカタ動きます。




パイプを挟む前に、先に左側のボルトを固定し横からパイプを入れようとするも、引っかかって入っていきません。
つまり、

パイプを挿している状態だと、クランプの内側が僅かに浮いているのが確認できます。

つまり、このように斜めになっているのです。
そのためボルトの座面も斜めになり、伝わる力も斜めになります。強く締め込むことで密着するのかも確認しましたがそうはならず。というかむしろ、この僅かな傾きが無いと、右側のボルトの締め込みの力がパイプにしっかり伝わらないことになってしまいます。

図で表すとこんな感じ。
理想通り『完璧な』精度で造られていれば、左側の隙間もなく、右側のボルトのまっすぐな締め込みでしっかり固定されることになりますが、大量生産される部品ですので現実的ではありません。コストがかかり過ぎます。
なので、安パイを取ると若干隙間を持たせる設計に落ち着くわけです。
ただし、一応念のためこれらのパーツの座面が、実際に全て平行になっているかを確認する必要があります。
つまり、クランプ面とボルトの座面が平行であれば上の結論になりますが、この傾き分わずかにボルトの向きを斜めにする処置が取られていないとも限りません。
そこで、

ジグを作り、

フライス盤で垂直を確認してみることに。
ジグをボルトのザグリ部分に差し込み、主軸に接触させて垂直を目視します。

前後方向の傾きに関しては、この計測方法では垂直であることが確認できました。

もう一方も見ましたが、結果は同じ。
まぁ、クランプの製造工程を考えた場合、ボルトの角度を僅かに傾けるというのはいささか現実的はないなぁとは思いつつも、確証を得るためには検証しなければなりませんからね。
ーーーーというわけで、ストリートファイターのハンドルバークランプは、割と精度の低いクランプ方式が採用されており、大量生産ならではの設計であることが判りました。
なので私としては、それをもう一歩先へ進めたいと考えるわけでありまして・・・・

クランプの接触面の傾きを設計通りの隙間にすることで、ボルトの締め込みの力もまっすぐになり、片締め方式よりは幾分か『マシ』になるのではないかと考えたわけです。なので、少し隙間が空いていることになります。
要するに、Cの簡易分割型の体裁をとりつつも、結局はBの分割型と同じ概念で締め付ける方が理にかなっているのではないかと。
しかし、よくよく確認してみると、事態はさらに深刻でありまして・・・・

画像の左側を先に締め付け、次に右側を締め付けるセオリー通りのやり方の場合。及び、だいちゃん流の左側の面を平行にしてから左右を均等に締め込むやり方いずれにせよ、右側の締め込みがかなり斜めにしなってしまうことが判明したのです。

おおよそ0.5mm分。角度にして1.8°の傾きができてしまいます。つまり、上側のクランプがそれだけしなっているというわけです。締め込む前は、左側をだいちゃん流で少し隙間を空けることで、右側の面も平行になります。ですが、そこから締め込むと斜めになってしまう。
左側を先に締め込むやり方の場合、右側はやや開き気味になっているものの、そこから締め込むと同様に斜めになってしまいます。
この2つの差は0.1mmほどの違いはありますが、傾向としては同じものになります。
なぜこうなってしまうのかといいますと、まず挙げられるのはクランプ内径とハンドルバー外径の精度の差にあります。
ハンドルバーを脱着すると判るのですが、クランプに対しハンドルバーはスカスカの状態にあります。つまり、内径と外径の間にわずかではありますが隙間が発生していることになるのです。おそらく0.01mm~0.02mmとかその程度。
散々圧入を体感すると判るのですが、論理的に内径28.50mmに外径28.50mmのパイプを嵌め込むと、ぴったりくっついて容易には剥がせなくなります。それが理想的な精度であり、最初のAやBのクランプ方式では容易に達成できることではあるのですが、組立コストを重視したがあまり、肝心な取り付け精度が低下してしまったというのがDUCATIの実態と言わざるを得ません。
そしてもう一つはクランプの材質の剛性。なんのアルミが使われているのか判断出来ませんが、材質及び厚みの面で剛性が低く、締め込みの力で大きく伸びてしまう。

その点やはり、tmは違います。Bの分割型が採用されているのですが、ハンドルバーとクランプは完璧に密着しており、ボルトを緩めてもハンドルはすぐには外れてきません。ピッタリはまってしまっているからです。
締め込み時に車体前後のボルトを均等に締め込むというのが重要になりますが、この分割型のクランプはやはり高剛性高精度であることが伺えます。
そしてこれは、ハンドルバーに限らず、マシンの全ての組み合わせ箇所で高精度な設計をすることで初めて意味を成します。バイクは部品の集合体。その1箇所1箇所全てにおいて、完璧な精度の組み付けにする。
市販車であれば、tmとて現実的に妥協しなければならない点はありつつも、一切の妥協を排したマシンこそがF1やmotoGPマシンということになるのです。
ですが、大量生産されるマシンのクランプが、わざわざフィラーゲージで隙間を測りながら均等に締め込むなんて非現実的ですので、DUCATIの設計は決して卑下されるものではありません。『常識的に』『現実的に』当然の結果です。
しかしながら、その大衆車然とした構造の一歩先を行ったtmの設計には、やはり興奮を隠し得ないのもまた事実。
ーーーーー結果まとめると、ストリートファイターのハンドルクランプは、柔らかい材質のクランプを歪ませながらガッチリ固定する方式になっており、それで精度や剛性が低下しているとは言えど、実用上全く問題はないということになります。
今回私は、画像左側の面を平行にして僅かに隙間を持たせ、感覚的には『tmの様に』精度高く締め込んだつもりでいたのですが、実際に隙間を計測してみると想像以上にクランプが歪んでいたことが判明。どっちにしても変わらない→どっちでも良いということが判りました。
つまり「やっぱtmは凄い!」という結論に達したわけであります笑
by tm144en
| 2023-07-28 03:15
| DUCATI SF848
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