【tm125EN】灰色の空に希望を(最終話)

さぁ!向かえに行くよ!!

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エネルギーを補給し終えた所で、早速次の行動に移る。愛機を向かえに行く為に。

時刻は15時。日没まではあと4時間ある。計算通りに行けば余裕があるが、何が起こるかわからない以上行動は早めに起こす必要がある。
実は、素っ裸でひっくり返っている時にここまでの行動を全て想定していた。あの時あの状態でマシンを動かすことは不可能だったが、エネルギーさえ補給すれば一人でもなんとか脱出できるはず。だったら、ということで一旦自分だけ下山したのだ。

これこそ真の『急がば回れ』である。

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車は、遭難場所から最寄りのゲートから入り、途中から歩いてきた場所を辿ることにした。
ちなみに、このゲート付近で釣りをしている人がいたので、あの時もしこちら側に来ていたとしても何とかなったと考えられる。
しかし、自分の不始末で赤の他人に助けを借りるなんてことはプライドが許さない。意識ある限り、自分の足で立ち上がり、自分の手で未来を掴みたい。

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先ほどのコンビニではエネルギーの補給だけに徹し、休憩という休憩は取らなかった。救出作戦の行動をなるべく早く起こしたかったからだ。
その代わり、林道を車でノロノロ運転することで、十分休息になっている。

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このあたりから徐々に険しくなってくる。
油断は禁物。ミイラ取りがミイラになっては話にならない。細心の注意をはらいながら車を進めた。

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先ほど歩いていた時に車が走れるかどうかを考えていたが、一番危ない箇所がこの地割れしている場所。もしここでタイヤを落としてしまったら、自力での脱出は不可能になってしまうだろう。再度徒歩で山を下り、今度はロードサービスを呼ぶハメになる。

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これ以上は進めないので、残り1kmは歩くことに。

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ブーツを長靴に変更しかなり身軽になったので、先ほどまでとはうってかわって軽快な私がそこにいた。
tm姫救出に向け、俄然テンションが上がる。

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冷静に考えれば、この先に進もうとすることがいかに危険か判りそうなものだが、『何か』にとらわれている状態の時はそれが見えなくなってしまう。
冷静であるように見えて、実は冷静さを失っていることがままあるのだ。
その『何か』の正体とは『好奇心』。「これを進めばどこかに抜けられそうだ」という好奇心は、時に冷静さを凌駕し我々を危険な場所へと誘う悪魔のような存在となる。


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20分程歩き、その姿が見えてきた。
さっきまで、ほんの4時間程前に山の中でもがき苦しんでいたというのは夢だったんじゃないのか?という気分だったが、遠くに見えたマシンの姿がそれが現実だったことを静かに物語っていた。

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まるで時間が止まっているかのようなこの場所を目の当たりにして、もしかして車を取りにいったことが夢だったんじゃないかと一瞬焦ったが、履いている長靴がそれが現実だったことを静かに物語っていた。

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また戻ってきた感慨にふける間も無く、まずは、持ってきたアクエリアス2リットルをキャメルバックに詰め替えた。さすがに2リットルは多いとは思うが、あの経験から飲み物は余すくらいあって丁度良いことを学んでいる。


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さぁ、最後の戦い。この鬱蒼とした笹薮から抜け出す。

進行方向に軽く登りになっていて、足元には丸太が点在。土質は湿って柔らかく、笹が進路を妨害する。まさに4重苦。
荷物は一旦そのままに、まずは身軽な格好のままマシンだけを上げることにした。

エンジンはこんな時でも一発で始動。どんな過酷な状況に置かれても、その揺るぎない信頼感は絶大だ。たった一人でこんな山奥にいて、心細くて崩れ落ちそうな状態にあっても、tmは私の心をしっかりと支えてくれていた。だからこそ、一度山から出てもまたすぐに救出に向かったし、一人でも大丈夫だと思えたのだ。
真のエンデューロマシンとは、こういった究極の状況でその真価が問われる。

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最悪の状態は脱した。
体力もそこそこに回復し、長靴で身軽になった状態ですら、マシンを押して上がるのは至難の技だった。

マシンを平坦な位置に停め、荷物を取りに戻る。
4時間前の汗が染み込んだままのプロテクター類をまた身にまとったが、その時とは顔つきが大分違っている。
灰色の空に見た希望の未来が、今そこにあった。諦めなかった現実が、今ここに。

残すはあと1km。まだ危険は多く残っている。ここで油断してはいけない。全集中力をマシン操作に注いだ・・・

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やっと・・・・やっとここまできた・・・・
もう少し。あと少しだ!

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マシンをしっかり固定し、準備は整った。
まだ終わりじゃない。最後の最後まで気を抜いてはいけない。この帰り道で、誤って崖に転落・・・などということになったら、なにもかも終わりになってしまう。

まだ、終わりじゃない!

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心なしかサンバー丸がたくましく見えた。こんな山奥まで来て、疲れ切った私とマシンを載せ着実に前へ進むその姿は、さながら航空母艦のようだった。
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日の入りまではまだ2時間もある。ゆっくり、ゆっくりでいいから、確実に。

そして・・・


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私たちの戦いは、終わった。

Commented by Babu at 2018-07-29 09:00 x
無事生還出来てよかったですね。
冒頭、サムライで熊と戦ったのか?と思ってました。
Commented by tm144en at 2018-07-31 04:10
ありがとうございます!
さすがに熊と戦っては勝てる気がしません(汗)

ただ、途中で熊の存在が気になっちゃったのがあって、それを記事にする為の前振りとして最初に熊の看板の話を書いたのですが、結局その話を省略しちゃったので熊の看板の話だけが浮いちゃった形になってしまいましたね(笑)
Commented by KKB at 2018-08-09 20:06 x
いつもブログを楽しく拝見しております。
私は登山をしており、山親父のいる、奥深き神威林道からの脱出にいつも以上に目を凝らし、この度の伝説を非常に興味深く拝読しました。

ところで、いくつか教えて頂きたい点があります。
a 当日の気温や日射の状況(アメダス記録などで参照可能です)
b 当日の体調
c 体調を悪化させた最大の要因は、どの辺りでしょうか?かなりの発汗があったのではと推測しています。
d 脱水症のように見えますが、実際の所どうでしょうか
e 今回の伝説から得た、注意点やアドバイスなど

お忙しい中恐縮ですが、お答えできる範囲で結構ですのでよろしくお願いします。
Commented by tm144en at 2018-08-10 05:39
>KKBさん

コメント&ご質問ありがとうございます☆
また、このような拙い文章を読んでいただき、ありがとうございます!

さて、ご質問の件ですが、私の個人的見解を述べさせて頂きます。

a)当時の現場の正確な気温は調べられなかったのですが、体感的には20℃+α程度で、天気は曇り、やや霧雨でした。
やや湿度が高かったですが、一般的に考えて、スポーツに適した天候だったとは言えます。

b)夜の仕事がAM3時に終わり、そのまま準備をして山に出かけ、AM6時から走り始めたので、遭難したAM11頃はすでにフラフラの状態だったと言えます。
ただし、今回に限らず10数年来いつもその様な状態で日曜日を遊んでいるので、「いつも通りの体調」と言えば、その通りです。

Commented by tm144en at 2018-08-10 05:40
c,d)当時、手足の痺れ及び硬直、めまい、視界の混濁といった症状が出ましたが、これを後日検討した結果『過呼吸』が直接の原因であると結論付けました。
かなり長い時間、ゼェゼェハァハァやってました。
試しに深呼吸を連続的に行うと、20秒程でめまいや手足に痺れが出てきますが、これがさらに進むとまさにあの時と同じ状態になると言えます。

そして、比較的短時間で体調が回復した点、その後2時間水を摂取しないでも山を歩き続けられた点を考えると、脱水症や熱中症といった症状では無いと考えました。
また、一時的に視界がグニャグニャしてはいましたが、意識や思考はしっかりしていた点からも、『過呼吸』の症状が一番しっくりきます。

では、なぜそのような過呼吸の状態に陥ってしまったかといいますと、以下の要因が考えられます。

1)行き止まり、及びバイクの走行不能状態によって、精神的不安、ストレスが生じた。
2)バイクを動かす為に激しく動き、体温の上昇、発汗、体力の低下。
3)通気性の悪いインナーウェアーによって、発汗による体温の発散が効率的に行われなかった。
4)この段階で飲み物を飲み干してしまったことによる切迫感。

ただ、非常に疲れる、体力を異常に消費する、といっただけでは過去の経験から過呼吸にはなりません。
おそらく、『精神的不安』というのが、引き金になっていると思います。(1)と(4)の部分です。軽いパニック状態に陥っていたのかもしれません。
もちろん、不安を感じただけで過呼吸になってしまうほどメンタルの弱い人間ではありませんが、寝不足から始まり、体力の低下といった要因が重なったことが大きいと思います。

e)対策としては、1〜4の原因を取り除く、ということになりますが、やはり飲み水の確保が一番重要だと思います。もしあの時点でちゃんと飲み物が飲めていれば、心は落ち着いて呼吸も整ったと思います。
あとは、万が一過呼吸になった場合の対策として、意識的に呼吸を少なくする、吸うより吐くを多くするなどといった対処ができることを今回学びました。

アドバイスという程のものではありませんが、やはり山に入る為の基本中の基本、単独行動をしないことと、飲み水の確保が重要であることを身をもって痛感しました。
あとは、慣れによる『慢心』も要注意ですね。
Commented by KKB at 2018-08-10 18:16 x
早速のお返事ありがとうございます。

私は登山一年目で道迷いを経験したことがあります。あるはずのない大滝が目の間に現れ、強い不安感を覚えたことを思い出しました。

過呼吸だったんですね。
水が無いというのは、脱水症状そのものよりも、心理的な負担になったんですね。

寝不足や体調悪化に伴い肉体的かつ心理的な負担が積み重なり、危機的な状況に直面しながら、力を振り絞っての行動、そして生還は、いずれも当事者しか語り得ないものであり、現場を共有しているかの如く伝わってきました

貴重な分析を、ありがとうございました。

なお、過呼吸であれば二酸化炭素を吸うことが有効ですので、ヘルメットを紙袋代わりに使うことが効果的かもしれません。

ところで、せっかくの考察ですので、コメント欄だけにとどめておくのはもったいないです。
よかったら、新たに一本の記事にしてみませんか?すばらしいツーリング記録にさらに厚みが増し、より深い冒険譚になるのではと感じています。
Commented by tm144en at 2018-08-11 04:22
とても有意義なご質問ありがとうございました!
早速記事にまとめさせていただきました☆
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by tm144en | 2018-07-29 06:49 | tm125EN | Comments(7)

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