【DB7】ネクストステージ
2016年 09月 20日
実に5年ぶりとなる。
バイクや車で、速さを追求する走りをする場合、ホームコースの存在は非常に重要である。何度も何度も走った同じ峠やサーキットがあることで、例えば違う場所で走る時や違うマシンで走ることになった時にも意味をなしてくる。
私の場合、小樽方面にある『毛無峠』という場所をホームコースとしており、今まで数え切れない程走りこんできた道だ。
その毛無峠からさらに、新毛無と呼んでいる新しく開通した道、及びニセコのパノラマライン、裏パノラマライン、さらにはそこから豊浦に抜ける道、中山峠、朝里峠を大きくつなぐ、全行程300km程の道が748を乗るようになった10数年程前からのホームコースとしての定番ルートとなった。(新毛無はその数年後であるが)
姫に乗るようになってから6年程経つが、実は姫でそのルートを走っていたのは最初の1年だけで、それから5年間一度も走っていなかったことに、今回改めて気がついたのである。
それは一重に、姫のツーリング性能の高さ故。ツーリング性能が高いが為に、同じ場所を走るのではなく、色々な場所に行きたくなるのだ。走りを追求するというよりは、単純に走りを楽しんでいるだけであると言える。
どちらが良い悪いではなく、ただマシンが『そうさせる』だけのこと。
兎にも角にも、久しぶりに姫でホームコースを走った。
すると、見えてきたものがあった。さすがホームコースである。
まず、結論から言うと、タイトルにもある通り、今年37歳になる私は『ネクストステージ』に立った。いやもう既に立っていたのかもしれないが、今回の走りで判ったことである。
では、ネクストステージとはいったい何か?今まではどのステージにいたのか?という部分であるが、一言で言えば、これからは『上質な走りを追求する』ということである。
今までが下品だった、ということではないが、どちらかといえば力任せというか、コーナリングの仕方も乱雑で、大声で「んどりゃ〜!」とか叫びながら遠心力と戦っていた。
それはそれで楽しく、曲がりきった時の達成感、走り終わった時の燃え尽きた感じは、何事にも代え難いものである。
しかし、F4がその全てを破壊した。
アグスタF4。鬼畜とも言えるそのマシンは、ともすれば飄々とした姿で乗り手を騙す。
あまりにも速すぎる。あまりにも速すぎるのだが、乗り手は即座にそれに順応する。それは時に、『危険』という概念すらも吹き消す。
在るのは、『陶酔感』。
姫は、DB7は、DB7をもってしても、F4のその魔力を抑えることはできず、乗り手である私は完全に支配されてしまったのだ。
取り憑かれた私は、ホームコースの特に新毛無の高速コーナーに酔いしれた。
時速200kmに迫ろうかという速度でマシンを寝かせ、ストレートでは300の一歩手前。完全に常軌を逸しているとしか言えない。
しかし、不幸が起こった。
同時期に同じマシンに乗っていたお方が、事故で亡くなられたのだ。
それで私はハッとした。自分も二の舞になる、と。
バイクに乗っていれば、身近な人が事故で亡くなってしまうことはままある。だが、それを受けても「自分は大丈夫」と思ってきた。
しかし、F4は違う。なぜなら、乗りながらにして、「これはいつか死ぬ」と普通に考えていたからだ。
ああ、死ぬな、という危険な状態にありながら、それを危険と認識させない危険。本当の意味での危険である。
その危険な状態を、皮肉にも身近な人の死が気づかせてくれたのだ。
そして私はF4を手放した。
誤解の無いように付け加えるが、F4というマシンが、それにまたがる全ての人を、魔界へ誘うというわけでは無い。
心の弱い人間、悪魔にスキを見せてしまった人間が乗ると、たちまち付け入られてしまうということである。
そう、『悪魔』。この言葉がピッタリだ。
悪魔の支配から逃れ我に返った私は、久しぶりにDB7に跨ったが、もう以前までのような関係を築くことは出来なかった。
F4と比べ、あまりにも遅く、また安定感に乏しい。とてもF4と同じ速度でコーナーに進入できなかったのだ。
そしてあろうことか、大事なDB7までも手放してしまおうとさえした。
しかし、神はそれを許さなかった。
結果、人の手に渡ることなく、再び私の元に戻ってきたのだが、それ以来考え方が変わった。もしかすると、その時点で『ネクストステージ』に立っていたのかもしれない。
速さを追求するのではない。上質な走りというものを追求すべきだと、悟ったのだ。
今回の走りで、そのことを強く意識するようになった。それは『ホームコース』を走ったからに他ならない。
ホームコースではない、違う道を走っていただけでは、DB7との向き合い方にズレが生じていても、「まぁ、慣れてない道だし」で片付けてしまう。
しかし、いざ5年ぶりにホームコースを走ったことで、そのあまりの脆弱さに気づかざるものに無理やり気づかされたのだ。
いや、もしかすると、気づきたくなかったのかもしれない。やはり、心のどこかで、F4に劣る、ということを認めたくなかったのだ。それが例え悪魔の走りだったとしても。。。
だからホームコースを封印し、ツーリングマシンへと転化させたのだろう。無意識レベルで。
F4という高次元な走りを目の当たりにしたことで、DB7の脆弱さが露呈することになった。
しかし、それがイコール『ダメなマシン」、ということには決してならない。
脆弱さは、私の腕でカバーすれば良い。いや、むしろその脆弱さを乗りこなすことが、今後の課題であり目標。
マシンの性能を把握し、挙動を完璧に制御する。
これこそが『上質な走り』というもの。
『速く』走るのではない。『上手く』走るのだ。
それが私のネクストステージ、、、
by tm144en
| 2016-09-20 04:16
| BIMOTA DB7S
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