浄水器の訪問販売

以前働いていた、浄水器の訪問販売のお話で幕間つなぎを。。。

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大阪で浄水器の訪問販売をやっていたのが、20歳頃の事でした。
それまでガソリンスタンドの社員として努めていたのですが、安い給料に嫌気がさしていた時にたまたま見つけた『月収30万円以上!』の文字。
しかも、仕事内容はアンケートを取るだけとのこと。
そんな簡単な事で30万円も貰えるんだったらと、早速面接を受け難なく合格。
3ヶ月の研修と称して大阪へ飛ばされるのでした。戻って来れないとも知らずに。。。


最初の1週間は天国のような日々でした。
優しい先輩の指導に、同期の友人達。しかも、初任給から30万円貰えるとあって、バラ色の人生を描いていました。

状況が一変したのは1週間の研修を終えた時でした。

それまで教えてくれていた先輩は、実は単なる事務の人で、これから出会う人がバリバリの営業マン&ウーマンだったのです。

事務の先輩と同じレベルで考えていた私は、その営業の人たちが集まっている場所に初めて入った時に愕然としたのを今でもはっきりと覚えています。

「ここは刑務所?いや、軍隊?」

15人位の人達が、揃いも揃って怒鳴り声を上げているのです。
1週間の研修で、大きな声を出すようにとは言われていましたが、まさかこれほどまでとは思ってもいませんでした。

まず、話の基本は『押忍』に始まり『押忍』で終わります。
名前を呼ばれると「はい!押忍!」と返事をし、今日の抱負の述べたり、意見を言ったりし、最後に「以上です、押忍!」で締める。
話している時の手は腰に添え、足は肩幅に開き、なにより、一言一言を全力で発声するのです。

とはいえ、それは午前中会社にいる時の事であり、会社を出てからはそこまではしません。
要するに、これから向かう言わば『戦場』へ向けて気合いを入れる為の行為であり、実際町中で大声を出してたら、警察を呼ばれるのが関の山です。


一口に『訪問販売』と言っても、数々の段階を踏みます。
我々が扱っていたのは1個26万円する浄水器でしたので、おいそれと売れるものではありません。

まず最初に、アンケートと称して一軒一軒の家を回ります。インターホンを押し、アンケートのお願いをします。
当然断られるので、しつこくなり過ぎない程度に軽く粘り、だめならさっさと次の家に向かいます。

「お忙しい所すみません、◎○のだいちゃんと言います。今、市場調査とってるんで、お願いしまーす」

「いや、結構です」

「順番に回ってるんで、お願いしまーす」

「ウチ飛ばして下さい。」

「1分位で終わりますんで、お願いしまーす」

ここで断られたら、大抵は諦めます。

このペースで周り、1日2〜300件の家のインターホンを押す事になります。

アンケートを協力してくれた場合、10個程の質問をし、「ご協力ありがとうございました〜」とあっさり引き下がります。

、、、と、見せかけて

ここからが本番。

「あ、それと、ウチの会社○○って言うんですけど、聞いた事ありますか?」

「無いです」

「あぁ〜そうですか!それじゃぁ、今宣伝で回ってるんで、覚えてもらっていいですか?○○のだいちゃんって言います!新人なんで、よろしくお願いします!」

「はい、わかりました。」

「今なんでこんなことやってるかって言うと、テレビやラジオで見たり、聞いたりするだけではなかなか伝わらないじゃないですか〜。」

「はぁ。」

「なので、こうやって、一軒一軒回って、宣伝してるんです。せっかくなんで、宣伝させてください!」

「はぁ。」

「奥さん、ミネラルウォーターの出る機械って知ってますか?」

「ああ、浄水器?」

「違います!『ミネラルウォーター』の出る機械なんです。」

「いやぁ、知りません。」

「ウチは、それを作ってる会社なんです!」

「そうですか。」

「奥さん、さっきのアンケートで、浄水器を使ってるってことでしたが、全部に使ってますか?」

「全部って?」

「例えば、お米を研ぐ時は?」

「研ぐ時は普通の水道水です」

「野菜を洗う時は?」

「それも水道水」

「じゃぁ、いつ浄水器の水使うんですか?」

「お米の炊く時の水や、お茶飲む時は、浄水器の水使ってますよ」

「そうですか。なんで、研ぐ時から使わないんですか?」

「研ぐ時は勿体ないから」

「そうですか。それじゃぁ、お米を研ぐ所から炊く所まで、野菜を洗うのも、全部ぜ〜んぶミネラルウォーターでやれたら、どう思います?」

「そりゃ良いんじゃないですか?」

「ですよねー!」

「あ、でも、買わないわよ!」

「あら、奥さん、僕、今宣伝で回ってるって言いませんでしたっけ?」

「どうせ売りつけるつもりなんじゃないの?」

「あのですね、今宣伝で回ってるんで、奥さんにミネラルウォーターの出る機械を『お試し』でいっぱい使ってみて欲しいんです。それで、もし良かったら、、、」

「ほら、買えって言うんでしょ!」

「いえ、もし良かったら、みんなに宣伝して欲しいんです」

「え?」

「ですから、宣伝で回ってるんで、奥さんが広告塔となって皆さんに宣伝して欲しいんです。でも、その為にはまず、奥さんにたくさんたくさんつかって貰わないと駄目なんで、1週間位機械置いてくんで、いっぱい使ってみてください。そして、終わったら、また取りにくるんで、返して下さいね」

「え、でも、買わないわよ!」

「あれれ〜?話聞いてました?宣伝なんで、返して貰わないと困るんですよ。」

「でも、そんな機械なんて置く場所ないわよ」

「機械っつっても、こんくらいなんで」

「う〜ん、、、」

「おネシャーす!おネシャーす!新人なんで、おネシャーす!!!」

「はぁ、、、」

「ただ、ここまで言っても、蛇口で合う合わないあるんで、合わなかったらごめんなさいになっちゃうんで、蛇口だけとりあえず見せてもらっていいですか?」

「あ、はい、どうぞ。」

。。。

「ああ!ピッタリです!良かったですね!合いますよ!」

「あ、そうですか。。。」

「じゃぁ、今機械持ってくるんで、10分したらまた戻ってきますね!」

「あ、はい。でも、あんまり時間が、、、」

「大丈夫です!すぐ終わります!蛇口ピッタリなんで!」


ーーーーーとまぁ、こんな単純なやり取りになることは殆どないんですが、大体の流れはこんな感じになっています。
この、浄水器を持ってくる段階まできたことを『取り付け』と言い、所謂『アポ取り』というやつになります。私の仕事はこの『アポ取り』までで、俗に『アポインター』と呼ばれています。

このあと、浄水器をもって再び訪れる時は、メンテナンスの人と称して、所謂『クローザー』の人を連れてきます。このクローザーの人が基本的には買ってもらう所まで持って行く(クロージング)するのですが、それにも段階があります。

まずは、レンタルの申し込みをしてもらい、月3000円で使って貰えるようにする(申し込み)。

その後、10年のレンタル契約を結んでもらう(レンタル。レンタル専門の『レンタルクローザー』と呼ばれる人もいました。)

月3000円×10年=360000円なので、買ったら260000円だから、買った方が安いと言い、買って貰う(契約)。これを『ひっくり返す』と呼んでました。

午前中は、この段階ごとの『トーク』の特訓をひたすら行っているのです。

ちなみに、浄水器を持ってきたら『デモ』が始まります。
蛇口に浄水器をセットしたら、まずは水を飲み比べてもらいます。

そして、浄水器界隈鉄板のアイテム『オルトトリジン』を取り出します。
オルトトリジンとは、水に含まれる塩素の濃度を計る薬で、プール等で見た事がある人もいるでしょう。

コップに入った浄水器の水と、普通の水道水にそれぞれオルトトリジンを入れると、水道水の方は黄色くなるので、大抵の人はここで「おお〜」となります。

「奥さん!お米研ぐ時、水道水でやってるって言ってましたよね?」

「はい。」

「この水(黄色いヤツ)で研いでるって思ったら、どうですか?」

「ちょっと、気持ち悪いですねぇ。。。」

「ですよねぇー!」

営業の基本は、相手に喋らせること。一方的にコチラ側から畳み掛けたのでは、相手は引いてしまうので、あくまで相手に主導権がある状態で話を進めなければなりません。
そして、その相手の口から出た、コチラにとって都合の良い言葉に対してすかさず「ですよねー!」と同調するのです。これが最も重要な事。

飲み比べ、オルトトリジンと来て、次に行うのがこの黄色い水道水にお茶っ葉を入れる行為。

実はここにちょっとしたカラクリがありまして、お茶の葉のカテキンが、塩素を吸着する役割があるので、コップの黄色い水にお茶の葉を入れるとあら不思議!さっきまでの黄色い水が一瞬で透明になるではありませんか!

「どーーーですか!奥さん」

「ええ〜〜なんで〜!」

「水道水に入ってる塩素が、お茶っ葉にくっついちゃったんですよ!(←ちょっとウソ)」

「ええ〜〜〜」

「そうなんです。なので、水道水でお米を研いだら、お米にぜ〜〜〜んぶ、塩素がくっついちゃうんですよ!」

「ええぇ〜〜。。。」

「それ聞いて、どうですか?」

「いやぁ、ちょっと信じられないです〜」

「信じられない?何が信じられませんか?」

「いやぁ、だって、こんなことになるなんて」

「でも、実際に、今見ましたよね。黄色い塩素が、全部くっ付いて、透明になる瞬間。これ見てどうですか?」

「いやぁ〜。。。」

「このあと、晩ご飯作る時、普通の水道水でお米研ぐの平気ですか?」

「いやぁ〜、ちょっと気持ち悪いですねぇ〜」

「ですよねー!」


絶句してる人に、「気持ち悪いでしょ?」と言ってはいけません。あくまで相手がどういう感情を持っているかを、相手の口から引き出さなければならないので、はやる気持ちを押さえ、あの手この手で「気持ち悪い」の一言を引き出すのです。
ここで、「気持ち悪い」を言ってくれない人は、すなわち『落ちて』ない人なので、申し込みも、レンタルも、契約も取る事は出来ません。

逆に、ここで「気持ち悪い」を言ってくれたら、ほぼ契約成立と言っても過言ではないでしょう。

私の仕事は、この「気持ち悪い」を言わせるのが最大の焦点でした。

しかし、今上げた例のようにトントン拍子で進むことなどそうそう無く、300件のインターホンの内、アンケートを取れるのが10〜15件。その内3件のアポが取れれば良い方なので、確率は100分の1。しかも、その契約までこぎ着けるには、アポ3件につき1件あるか無いかなので、なかなか難しい世界ではあります。

しかし、営業とは『確率』。
300件叩いて1個売れるのであれば、3000件で10個売れるということ。10人いたら100個売れるということ。
そういうことなのです。

そして、売れた次の日は、またゼロからのスタート。毎日毎日が『ゼロからのスタート』なのです。

時には、私が1日でとったアポ3件がその日の内に全て契約が決まったり、アポ取ってから2時間で現金で買ってくれたりした人がいたりもしましたが、でも、次の日になったら、『ゼロからのスタート』なのです。

「お兄ちゃん気に入ったから買うてあげるんやからねー!」という言葉に励まされる事も多々ありました。人情の町大阪。物ではなく、人を買ってくれる町。

一生懸命頑張ってアポ取って、それが契約に結びついた時の喜びは何物にも変え難いとても素晴らしい経験でした。

あの時、私という人間を買ってくれたおばちゃん達には心から感謝しています。
玄関上がるまでは人当たりが厳しかったですが、一度台所まで入るととても優しい人が多かったです。

私が大阪で学んだことは、人の優しさと、物を売る事の大変さ。
そしてなにより、『成功への信念』。これに尽きます。
Commented by タシマ at 2014-11-29 09:44 x
面白い!営業うまそうだもんね笑
大阪風俗話はまだですか?
Commented by ノーベル田中 at 2014-11-29 18:35 x
田中「このガレージにフラ〇ス盤や〇盤があったらいいでしょうねぇ~」
だいちゃん「フラ〇ス盤や〇盤は禁止です。」
田中「いやいや。売りに来たのではありません。宣伝です。」
だいちゃん「で、買えって言うんでしょ。」
田中「いやいや。おやっ?そうこうしている間にスペーサーが出来ちゃいましたよ。」
だいちゃん「おお!」
田中「どうですか?」
だいちゃん「スゴイ・・・」
田中「ですよねぇ~!」
だいちゃん「でも買わないよ」
田中「いやいや宣伝ですから。でもボール盤だと2時間は掛かっちゃいますね。慣れたらラクなんですか?」
だいちゃん「辛いです」
田中「ですよねぇ~!」

そしてだいちゃんガレージの機材が充実するのであった。。。
Commented by tm144en at 2014-11-30 03:43
タシマ氏

辞める最後の日に、出利減る呼んだ。
大阪のおばちゃんは良い人だたー。。。


ノーベル田中さん

や〜め〜て〜〜〜〜(笑)

と、いいますか、潰れた工場とかから破格値で○盤が手に入るらしいんですが、如何せん運賃が相当高いらしいので、運ぶの手伝ってください(笑)

Commented by まつ at 2020-08-30 21:00 x
ジークコーポレーションですよね♪
ピュアクリスタルww
Commented by tm144en at 2020-08-31 01:42
あら!ご存知で!

・・・あ、すみません!押忍っ!!
今日は取り付け3本絶対取ってきます!以上です押忍っ!!

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by tm144en | 2014-11-29 04:20 | Comments(5)

カメラとバイクとエトセトラ


by だいちゃん